ニューヨークのメディアアート・アーカイブや活動
Ann Adachi-Tasch
Moving Image Archives and Programs in New York: A Brief Introduction
Below is a brief introduction to five organizations/programs in New York city (Rhizome, The Guggenheim Museum, Anthology Film Archives, Electronic Arts Intermix, and New York University Moving Image Archiving and Preservation program) that support or educate preservation and archiving of moving image works and media art. This entry is available in Japanese only.
以下はニューヨークで映像やメディア・アートの保存やアーカイブ活動をしている5つの団体の大まかな紹介です。
Rhizomeは1996年より設立した非営利団体で主にインターネットをベースにした美術作品の制作、保存、配布、そしてネット・ベース作品の解釈をサポートする団体で、新しいネット作品のコミッション、90年代頃から制作されてきたネット作品やCD-ROM作品の保存管理、イベント開催を行います。ウェブサイトでは作品の展示、ジャーナル、ネット上のコミュニティー育成などをしています。Rhizome ArtBase はデジタル・アートのオンライン・アーカイブで2,500以上の作品がネット上で展示/収蔵されています。世界各地からのソフトウェア、コード、ウェブサイト、映像、ブラウザーなどを使った作品が保存されています。そのような作品の保存作業には作品そのものだけでなく、制作当時のテクノロジーや外観(ブラウザーなど)の保存も同時に行います。
The Guggenheim Museum /グッゲンハイム美術館では250のTime-based 作品を所蔵しています。Conservation、保存作業は2008年から実施されています。作品を作家から頂くときには作品はハード・ドライブに収蔵して受け渡しされ、作品は作家が制作したオリジナル・フォーマット(Native Artist Master)と保存版の圧縮されていないフォーマット、(Artist Preservation File, 10-bit Uncompressed)を受け取ります。受け取った後はその内容のチェックをし、ファイルのコピーをサーバーにも保管します。グッゲンハイム美術館ではLTOを利用せず、全てを多数のサーバーに保管しているそうです。展示用にはProRes, MPEG 4, H264のフォーマットで展示します。カタログ・データはビデオのファイルと一緒に作品のメタ・データ、Checksumデータを一緒に管理します。
Anthology Film Archivesは1970年に設立され、Essential Cinema Repertoryという前衛シネマで最も重要とされる作品のコレクションを上映する場所として開館しました。今日は作品の収蔵と上映だけでなく、前衛シネマに関する資料を保持するライブラリ、年間900の上映プログラム、そして年に25作品の修復活動を行い、これまでに900作品を修復してきました。ビデオのコレクションは館内でデジタル化しており、1/2 インチや3/4インチテープ、またオープンリールからUncompressed とProResファイルを制作しています。また館内の2Kスキャナーは16mm や35mmのフィルムからDPXファイルを作ります。その他にDCP、ProRes、 H264なども制作します。デジタル・ファイルのバックアップはLTO6を使用します。Anthology Film ArchivesがLTOに継続性があると思う理由は大手銀行や保険会社が記録を保存するのにLTOを利用しているからだそうです。この他にフィルムの修復、保存は館外の業者に頼みます。保存の優先判断はネガティブがない作品や上映コピーが一つしかない作品、またよく上映のリクエストがある作品などです。近年、Anthology Film Archivesでは、フィルム保存のメソッドの実験をしています。例えばSuper 8mmの作品を16mmにブローアップするものと、Super 8mmをデジタル・スキャンし、その後16mmのポジとネガを制作するものと見比べた実験をしました。結果、スキャンをした16mmの方が上映した時に画質のクオリティーが高く、しかもスキャンをしてあるのでフィルムの保存と同時にデジタル版も制作できるということでした。またSuper 8mmの作品を16mmにブローアップしたものはSuper 8mmの解釈といった出来具合で、Super 8mmの「感じ」が失われているという難点があったということです。
Electronic Arts Intermix (EAI)は1971年に設立され今日では3,500作品(ビデオ・アートを中心)の配布(ディストリビューション)、修復・保存、一般向けイベント、またオンライン・カタログにて作品の解説、抜粋版、そしてメディア作品の保存や展示についてのガイドライン(Online Resource Guide)、HD作品の取り扱いガイド、そしてEAIや団体が関わったニューヨークのメディア芸術のヒストリーもまとめて紹介しています。「レアなオブジェクト」という概念から作品のコピーを厳守してビジネスを営む画廊とは違い、EAIは作品のエディッションのリミットを作らないことで多くの美術館、大学、図書館などの施設へ作家の作品をディストリビュートしています。それはある一方でYouTubeや Ubu.comなどのサイトで誰でも見れるような厳守なし、フリーなデストリビューションモデルと、ある一方で作品を「レアな1作品」と主張し、デストリビューションの厳守をする画廊とのスペクトラムのどこか中間にEAIはあるといいます。
New York University, Moving Image Archiving and Preservation (MIAP)プログラムはフィルム、ビデオ、ニュー・メディア作品の保存のプロフェッショナルを育成する2年制大学院プログラムです。このプログラムは未来のコレクション・マネージャー、アーキビストに理論、メソッド、そして実技をトレインします。コースのカリキュラムは一年目に「映像保存の基礎」、「デジタル保存について」、「著作権、法的ポリシーについて」、「映像の音声」、「アーカイブ、美術館、ライブラリのカルチャー」、「データベース・マネージメント」、「映像作品のメタデータ」、「インターンシップ」、「デジタル保存」、「テレビの歴史と文化」、「ビデオ作品保存」、「映像キュレーション」、「フィルム保存」などです。このカリキュラムの詳細はMIAPのサイトで公開されています。またAudiovisual Preservation Exchange (APEX)というプログラムでは海外の映像アーカイブを訪問し、アーキビストや専門家とエクスチャンジをし、共にそのコレクションの方ロギング、メタデータ・マネジメント、デジタル化、デジタル保存、コレクションへのアクセスなどについて一緒に考え、実際行います。またコミュニティー・アーカイビング・ワークショップ(Community Archiving Workshop)というプログラムでは一人の専門家がローカルの図書館、資料間、公民館など、映像資料がある施設に行き、そこで働く映像専門でない人々と映像資料のカタロギングを行い、専門知識を広めていくというプログラムです。このプログラムはカタログ・データ制作へ向けてのサンプル用紙や、カタロギングをどのように進めるかのガイドなど様々な参考資料が提供されています。その他にも様々なリサーチ・プロジェクトが行われ、レポートやレファレンス・ガイドがウェブサイトで公開されています。